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究について

宇宙の複雑性を読み解く
ラボでプラズマを作る
物理を理解する
RT-1プロジェクト
研究施設
国際的研究活動
最新の成果
キーワード

宙の複雑性を読み解く

人工衛星や望遠鏡など観測技術の目覚しい進歩によって,宇宙を見る私たちの視力は飛躍的に強化されています.それに伴って,極めて多様な存在形態をもつプラズマが発見されるようになりました.銀河,降着円盤,ジェット,太陽の光球表面やコロナ,太陽風,惑星磁気圏などの諸環境において,プラズマは独特な構造をとり,多様な運動様式を示します.その基礎過程の物理を明らかにし,新しい応用技術を開拓します.

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ボでプラズマを作る

宇宙の様々なプラズマが見せる多様な現象を実験室で再現する実験がRT-1プロジェクトです.この研究プロジェクトは,プラズマ中に生成される 高速流に関する理論的な予測をもとにProto-RT実験装置で行なった基礎実験から発展してきたものです.この実験装置では,天体の磁気圏に似た 構造のプラズマを安定的に生成することができ,プラズマの回転運動などに関する物理研究を進めてきました

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理を理解する

複雑な宇宙のプラズマ現象を理解するためには,新しい理論の方法が必要となります.とくに〈フローイングプラズマ〉すなわち流れをもつプラズマの振る舞いを解析することが重要な課題です.流れのシヤー効果を表現する方法や,特異点の解析,変分原理などを開発しつつ,理論の精度を高めてきました.

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RT-1 プロジェクト

RT-1は新領域創成科学研究科と高温プラズマ研究センターの共同プロジェクトです.宇宙で見られる様々なプラズマ現象を物理的に解明し,それを先進核融合などの新しいエネルギーの開発に応用することを目指しています.

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究施設

RT-1実験装置(超高速流プラズマ実験装置)@柏キャンパス

東京大学は,本郷,駒場,柏の3キャンパスにおいて,それぞれ特徴ある教育・研究を展開するという構想に基いて不断の改革を進めています.新キャンパスである柏は「知の冒険」の場として位置づけられ,学問の新領域に挑戦しようという研究者が集う空間となっています.

柏キャンパスの中核を担うのが,平成11年度に設置された大学院新領域創成科学研究科(Graduate School of Frontier Sciences)です.教官数約180人,大学院生は約900人の規模です.従来の工学系,理学系をはじめとした,ほとんど全ての領域から教官が集まっていますが,網羅的になるのではなく,むしろ特定のフロンティアに集中的した教育・研究を目指す方針です.その重要な領域の一つがプラズマ理工学です.柏キャンパスには,中核実験設備RT-1が建設され,理論と一体化した先端研究をおこなっています.

RT-1プロジェクトは,自然科学研究と核融合エネルギー開発を連接する基礎実験研究として構想されたユニークな計画です(図1).その中心的な研究テーマは,プラズマ中の高速流が生み出すさまざまな効果です.高速流をもつプラズマには,極めて圧力が高い安定状態が現れます.木星磁気圏や活動銀河中心核からのジェットなどの観測で,このような構造が見られますが,そのメカニズムは未だよくわかっていません.実験室系で高速流プラズマを生成し,構造形成メカニズムの解明を通じて,極めて高い圧力をもつプラズマ状態を実現することが目的です.これが可能になると,D-He3核燃焼を用いる先進核融合が実現できる可能性があります.また磁気浮上超伝導内部導体による安定・定常磁場を用いた非中性プラズマ閉じ込めは,反物質プラズマや高電離イオンプラズマの高効率発生を可能とし,高エネルギー物質科学の先端的研究をおこなうことができます.

RT-1実験装置は,Proto-RT実験装置(吉田研究室)における基礎的な物理実験の成果と,Min-RT実験装置(小川研究室)で開発された高温超伝導磁気浮上コイル技術を統合した本格的なプラズマ実験設備です.2005年には装置の主要部が完成し,2006年1月にはファーストプラズマ生成に成功しました.

装置の主要部は,高温超伝導材を用いたリング状のコイルであり,250kAの起磁力をもちます.このコイルは,真空容器(半径1m)の内部に磁気浮上させられ,コイルが作る磁場(天体がもつダイポール磁場に相当する)によってプラズマを閉じ込めます.プラズマは8.2GHz,100kWの高周波電力と電子サイクロトロン共鳴によって生成・加熱されます.他にも,2.45GHz,20kWの電子サイクロトロン加熱装置を備えています.

際的研究活動

私たちの理論研究は,Trieste(イタリア)の国際理論物理学研究センター(ICTP)を舞台に国際的なネットワークを形成しています.毎年ICTPで,プラズマ理論カレッジ(4週間)およびプラズマ宇宙物理ワークショップ(2週間)を年交代で開催しており,吉田がコースディレクターとしてレクチャーとセミナーを企画しています.研究室から4~5人参加し,世界各国の若手研究者や著名な理論家と共同研究をおこなっています.

外国人客員教員や留学生も数多く迎えています.2006年度は,4月から1年間の予定で,グルジア科学アカデミー物理学研究所からBazha Berezhiani教授をお迎えし,共同研究を行っています.2005年度は,4月から10ヶ月間,インド宇宙物理研究所からVinod Krishan教授をお迎えし,現在も共同研究を続けています.短期的に研究室を訪問される外国人研究者も多く,2005年度だけでも,アメリカ,イタリア,インド,オーストラリア,グルジア,ドイツから来られました.また,海外に職を得て活躍している卒業生も数多くいます.

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新の成果

相対論効果による渦生成

相対論の効果で生まれる磁場.膨張する卵型の球殻上に発生する磁場の強度分布.膨張速度の不均一によって時空が歪むことで電磁場の「渦」すなわち磁場が生まれる.[S. M. Mahajan and Z. Yoshida: "Twisting space-time: Relativistic origin of seed magnetic field and vorticity," Physical Review Letters(2010年9月13日掲載)]

天体磁気圏の渦構造

磁気圏型プラズマ実験装置RT-1.真空容器中に超伝導マグネットを磁気浮上させ,天体磁気圏と同じようなプラズマの構造をつくることができる.先進核融合の可能性を追求する研究や,反物質プラズマを生成する基礎研究が行われている.

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〈渦〉をめぐる数学的問題


Professor Z. Yoshida gave a video lecture "Geometrical Theory of Vortex" at the First ICTP-NCP International College on Plasma Physics (Islamabad, 11-15, November, 2013). [Viewgraphs]

Plasma Conference 2011 (プラズマ・核融合学会第28回年会/応用物理学会第29回プラズマプロセシング研究会/日本物理学会(領域2)2011年秋季大会) が金沢市 で2011年11月22日~25日に開催され,吉田善章教授の基調講演が行われました.[講演概要

第10回 Asia Pacific Plasma Theory Conference がオーストラリアで2012年1月29日~2月3日に開催され,RT-1の成果が招待講演で紹介されました.[講演資料

日本物理学会第67回年次大会において吉田善章教授による招待講演「渦に注目するプラズマ宇宙物理の新展開」が行われました.[講演概要講演資料

Tbilisi State Universityにおいて吉田善章教授による特別講義"Self-organized structures over scale hierarchy: non-canonical Hamiltonian mechanics, phase space foliation, and vortex"が行われました.[講義ノート

ーワード

プラズマとは

物質は固体・液体・気体という3つの状態をとるといわれます(物質の3態).しかし物質がさらに高温・高エネルギーになると〈プラズマ〉という第4状態になります.これは,物質を構成する原子・分子が電離して,原子核(イオン)と 電子のバラバラの集団となった状態です.

実は,宇宙・天体の物質は,ほとんど(99%以上)がプラズマです.したがって,プラズマの物理的な性質を解明することは,宇宙に存在する様々な構造や現象を理解するために大変重要な基礎研究なのです.

核融合とは

私たちに最も馴染み深いプラズマは〈太陽〉です.太陽の中心部は温度が約1500万度,密度が約100g/cm3のプラズマです.このような高温・高密度になると原子核どうしが直接衝突して〈核融合反応〉が起こり,莫大なエネルギーを放出しています.私たちの地球は,そのエネルギーを受け取って生命を育んでいるのです.

現在の太陽の中心部で起こっている核融合は,水素原子核(陽子)からヘリウム原子核(アルファ粒子)を生み出す次のような反応です:

p + p → 2D + e+ + γ
2D + p → 3He + γ
3He + 3He → 4He + 2p

pは水素原子核(陽子),3He,4Heは質量数3および4のヘリウム原子核を表わします.このとき放出される莫大な核反応エネルギー(約4×1026)が中心部の圧力を高め,太陽の巨大な自己重量を支えているのです.

核融合エネルギー開発は,このような太陽のメカニズムを地上で実現し,安全かつ恒久的なエネルギーとして利用しようとするものです.これは,CO2放出がなく,事実上無尽蔵の資源(水素の一種)があり,さらに原子力のような核汚染の危険がないエネルギー源となるでしょう.

現在の段階では〈トカマク〉と呼ばれる装置で,温度が一億度を超える超高温プラズマを磁場によって閉じ込めることに成功しています.トカマク型核融合炉では

D + T → n + 4He

という核融合反応を用います.Dは重水素,Tは3重水素を表わします.国際協力で建設が始まろうとしているITERと呼ばれるトカマク実験装置において,いよいよ核融合によるエネルギーの発生が実証される予定です.

トカマクをはじめとする種々の核融合エネルギー開発研究は,超高温のプラズマが不安定になったり,エネルギーが異常に早く失われたりする現象と闘っています.プラズマが極めて多様で複雑な特性をもつので,これを十分に制御することが難しいのです.私たちは,実験装置の中だけではなく,宇宙に広く存在する様々なプラズマの構造や運動様式を丹念に調べ,プラズマ物理学の基礎をしっかりしたものにしながら,最適な核融合エネルギーの開発を進めようとしています.

非線形とは

数量化された法則を表現する数式の構造は,線形とそうでない非線形に分類される.線形というのは、比例法則に代表される、最も単純な関係のことである.すなわち,変数 x と y の関 係を表す数式が y = f(x) と与えられたとき,f = c x (c は定数)となる場合が線形である.たとえば,みかんが100gあたり300円であるとするとき,みかんのグラム数を x,それに対する価格を y としよう.このとき y = 300 x という方程式で価格計算が法則化される.このような比例関係は,小学校でも教える基本的な法則であるが,たとえば x = 106(1t)に対して y = 3×108 (3億円)と計算して正しいかというと,実際の経済では正しくない.変数の大きさによって法則が変化するからだ.このような線形(比例法則)からのずれが非線形である.スケールによって法則が変化するという非線形性こそ,現実世界のあらゆるところで重要な意味をもつ.
 → 吉田善章:非線形科学入門(岩波書店,東京,1998)

集団現象とは

個体の運動と対比して「集団現象(collective phenomena)」と呼ばれる概念がある.実際に我々の目にふれるのは,孤独な個体の理想化された運動ではなく,殆んどの場合,集団の運動である.従って,集団現象というキーワードで括られる研究対象は多種多彩である.古典的な意味で,物理学が対象とするのは,多数の「粒子」から成る系である.最近では,更に機能的な個体で構成される系(例えば生態系など)も研究の対象に入っている.

身近な例として,競技場に集まる観客を思い浮かべよう.そこにいる個人が,どのように振舞うかを問題にするのが,個体の運動を扱う学問といえよう.どのような場面で興奮するのか,隣から押されるとどう動くのかなど,個体と環境との相互作用が問題となる.そのために個体の内的な構造を解析する学問も必要となろう.一方,観客を集団的に観察することも論に値する.例えば「ウエィブ(wave)」と呼ばれる人の波が発生するのを目撃されたことがあろうか?それは一つの単純な約束ごと,つまり隣の人が立ち上がったら私も立とうという全体的な了解によって発生する集団現象なのである.波の伝わる速さを決めるのは何か,伝わる方向はどのように決まるのか,波形の崩れはどうして起こるのか,それらを議論するのが集団現象の学問である.

物理学が研究対象にしているのは「粒子」の運動である.物質は多数の粒子によって構成され,その集団としての特性によって「物性」を示す.所謂物質の3態である固体,液体,気体は,物質を構成する分子(あるいは原子)のエネルギーの違いによって,互いの結合のしかたが異なるために違った物性をもつ.気体よりも更にエネルギーが高くなると,原子を構成する原子核と電子がばらばらに電離した状態となり,プラズマ(plasma)と呼ばれる第4の状態が現れる.プラズマは,地球上に自然に存在することは稀であるが(大気放電,例えば雷はプラズマを発生する),宇宙全体でみると,物質の99%以上はプラズマの状態で存在すると考えられている.プラズマは様々な集団現象の宝庫であり,集団現象の科学の中核に位置付けられる.
 → 吉田善章:集団現象の数理(岩波書店,東京,1995).

自己組織化とは

多数の要素によって構成される「系」において,自発的に秩序が形成される現象を〈自己組織化(self-organization)〉という.集団現象の科学において中心的な研究テーマの一つである.社会や文化の領域にまで通底する概念であるが, 物理学の世界では明確な定式化と厳密な数理解析がおこなわれ,いわゆる「要素還元主義」の科学が見落としてきた重要な問題として位置づけられる.荷電粒子集団であるプラズマ中で起こる集団現象は,自己組織化の基本的なパラダイムを提示している.

多数の粒子が相互作用する系は,一見複雑でランダムであると思われるが,マクロな〈保存則〉(たとえば全質量,全エネルギー,全角運動量など)によって制限された運動しか許されず,その保存則によって,比較的単純な構造が形成されることになる.たとえば,保存則として「ヘリシティー」とよばれるトポロジーを束縛するものがあると,それによって「ねじれ」が生み 出されるという次第だ.

プラズマは,極めて複雑な運動をし,制御することが難しいが,自己組織化しようとする構造をよく理解することによって,いわば無理のないプラズマ閉じ込めを実現できる可能性がある.RFPやULQと呼ばれるプラズマ閉じ込め方式は,太陽コロナなどで自己組織化される構造と共通のものであり,たしかにプラズマの乱流状態の中から自然に形成されることが明らかになった.フローイングプラズマでは,double Beltrami場と呼ばれる構造が自己組織化されると理論的に予測されている.

プラズマとカオス

予測が困難なダイナミックスである「カオス」が起こる系では,僅かに異なる条件に対する運動が全く異なったふるまいをします.このような系では,ある一つの条件に対して得られた運動によって現象の「普遍的な特徴」を代表することができなくなります.

私たちは,個々の運動がカオスを起こすような系の「集団現象」に注目しています.これまでの物理学では,確率過程としてあつかわれる衝突過程や,粒子運動と集団運動の共鳴による「ランダウ減衰」という2つの基本的な散逸過程(エントロピー生産)が明らかになっていますが,カオスによるエントロピー生産は第3の拡散や加熱のメカニズムであるといえます.

具体的には,磁場のヌル点で起こる電子運動のカオスを調べています.ヌル点を流れる電流の電気抵抗を計測すると,カオスによって起こる無衝突電気抵抗があることが示され,我々の理論的な予測が実験的に裏付けられました.この現象は,非中性プラズマを生成するための基本的な原理として応用されています.また,無衝突の電子加熱が起こるので,低ガス圧で動作できる高性能プラズマ源に応用できます.カオスによる無衝突抵抗は,宇宙・天体プラズマで起こる磁気リコネクションにおいて観測される「異常抵抗」の発生原理でもあると考えられます.

フローイングプラズマとは

流れるプラズマのことをフローイングプラズマという.プラズマは,電離した気体であるから,もちろんほとんど全ての場合,静止せず流れている.

惑星間は〈太陽風〉が吹き荒ぶ空間であるし,その源である太陽も渦巻くプラズマの巨大な塊である.厳密な真空であると想像されていた宇宙が,プラズマで満ちていると認識されるようになったのは,まずオーロラがヒントとなり(deMairan (1754)によって太陽からの粒子が地球磁場に侵入することでオーロラが発生するというしくみが提案された),さらに彗星の尾が太陽の逆向きにのびるのは太陽からの粒子放射の影響であると考えられるようになってから(Biermann (1954))である.銀河の活動中心(AGN)からはプラズマジェットが吹き出し,複雑なショック構造が作られている.太陽観測衛星「ようこう」やハッブル望遠鏡などによって,宇宙にあるプラズマの姿が詳しく見えるにしたがって,多様な流れがプラズマを支配し,豊かな構造を生み出していることが,今さらながら認識されようとしている.

実験室系(核融合プラズマなど)の研究でも「静かに」閉じ込めていたはずのプラズマが自発的に流れを生みだし,閉じ込め特性を大きく変化させることがわかってきた.例えばトカマクでは,ストリーマー(streamer)と帯状流(zonalflow)という2つの流れのパターンがあることが示唆されている.前者は,太陽から噴出すプラズマ流に由来する名称であり,プラズマの激しい対流損失をもたらすと考えられる.他方後者は,木星の縞模様をつくる惑星流に由来する名称であるが,これはプラズマ中の渦を引き伸ばして減衰させ,閉じ込め特性を改善すると考えられている.この2つの流れパターンは,散逸の強さなどによって劇的に転移することが理論やシミュレーションで予測されている.

このように,さまざまな現象においてプラズマ流の重要性が明らかになる一方で,流れの効果を理解するための物理が十分でないことが認識されるようになってきた.これは,流れを含むプラズマの基礎方程式が非エルミート性や真性特異点の形成,特異摂動の導入など数学的に困難な問題を含むようになるからである.プラズマの流れは多様な現象の源であると同時に,物理研究の対象としても多くの未知の課題の宝庫である.
 → 吉田善章:フローイング・プラズマ-運動と場の結合が生み出す複雑性,日本物理学会誌58 (2003),496-503.

非中性プラズマとは

通常「プラズマ」というと,電離した気体を意味し,したがって,平均すると電気的に中性の荷電粒子多体系を指します.核融合研究に関連して進歩してきた高温プラズマの物理も,主として中性プラズマを対象としたものです.しかし,プラズマ物理の学理は,電磁力によって相互作用する多粒子系の「集団現象」に係る非線形科学として深化し,一般的な基礎学術へと発展しています.なかでも,中性条件を取り除いた「非中性プラズマ」の研究は,プラズマ物理の視界を格段に広げるとともに,さまざまな分野が関連する新領域の創成に道を開くものと期待されます.

非中性プラズマでは,中性条件下で縮退していた物理的効果が発現し,新たな特性が見出されます.とくに,自己電場によって起こるプラズマ流に係る物理は難しく,また魅力に富みます.応用としては,反物質を閉じ込めて作る反物質プラズマが注目されています.私たちは,さらに,非中性化したプラズマを用いて,超高ベータ(β>1)平衡を作り,先進的核融合(D-3Heなどの核融合)を実現することを考えています.

反物質プラズマとは

通常物質(原子核や電子)と反対の電荷をもつ物質であり,真空から通常物質を生成した「抜け殻」ということもできる.たとえば,陽電子や半陽子などです.これを閉じ込めてプラズマにすることで,全く新しい科学技術の領域が開拓されると期待されています.たとえば,陽電子(ポジトロン)は医療技術や様々な非破壊検査に使われます.

私たちが研究しているProto-RT実験装置は,円環状の磁場を用いた独創的なプラズマ閉じ込め方式であり,極めて高性能の閉じ込めを実証しています.

先進核融合とは

現在研究が進められている核融合エネルギーは,D(重水素)とT(トリチウム)の融合反応を用いるものであるが,これは中性子を発生するために,周辺機器が放射化する問題がある.これよりさらに安全な反応,すなわちDとHe3(ヘリウム)の融合反応を用いる核融合を先進的プラズマ核融合という.究極のエネルギー源となることが期待される.このためには,極めて高いプラズマの圧力(高β)が必要であり,独創的な基礎研究が必要である.超高温(1億度から10億度)のプラズマは,通常の容器で閉じ込めることができないので,真空中に「磁場」によって閉じ込める必要がある.プラズマの温度と密度が高くなって高圧力になると,より強い磁場をかけなくては,プラズマが安定に閉じ込められない.しかし,強磁場を発生するためには莫大なコストがかかるうえ,強磁場中ではプラズマからの輻射エネルギー損失が大きく,効率が悪くなる.先進的プラズマ核融合のためには高いプラズマ圧力を低い磁場圧力で安定に閉じ込めなくてはならない.この比をβ(ベータ)で表す.トカマクなどの装置では,通常βは0.1以下です.私たちが研究を進めている〈超高速流プラズマ実験装置〉では,高速流れの効果を応用してβが1を超えるプラズマの安定な閉じ込めが可能になると考えられます.

プラズマを応用するテクノロジー

核融合エネルギーのほかにも,プラズマは様々な先端技術に応用されている.イオンや電子などの荷電粒子源として用いる技術(半導体の超微細加工や物質改変など),プラズマの発生する光を利用するもの(プラズマ光源やプラズマディスプレイなど),プラズマの集団運動によって作られる電場,磁場を利用するもの(発振管,加速器など)である.