研究内容
RESEARCH次世代エネルギー「核融合」と
「プラズマ研究」を自然界から倣う
ダイポール磁場を使った粒子閉じ込め装置はPrinceton spherator がS. Yoshikawaらによって提案され、1969年にプラズマ実験が報告されています [1]。この時は、ダイポール磁場を発生させる超伝導コイルは真空中に支持した状態だったため、支持構造物で多くの粒子損失が生じることが報告されました。その解決策として支持構造の無い浮上コイルにすれば損失を大幅に減らせるとの楽観的見解が述べられています。ここでダイポール磁場とは地球のようにN極とS極を持つ磁場のことです。
プラズマは原子を高温にし、原子の電子とイオンがバラバラの状態を言います。しかし、プラズマは熱くて動きが速いので、普通の容器には入りません。そこで、荷電粒子が磁場に巻き付いた動きをすることを利用してプラズマを閉じ込めることが考えられました。核融合プラズマ研究では、ドーナツ状のトカマクなど様々な磁場トポロジーを持つプラズマ閉じ込め装置が考えられ、ダイポール装置もその一つです。
その後、Voyager 1号と2号による惑星探査により宇宙にはダイポール磁場を持つ惑星がたくさんあることが分かりました。例えば、地球や木星などです。これらの惑星は、プラズマを磁気圏という空間に閉じ込めています。磁気圏は、太陽風や磁場の乱れなどの影響を受けますが、高いプラズマ圧力に対しても安定に存在しています[2-4]。これは、ダイポール磁場を使った粒子閉じ込め装置の可能性を示しています 。そこで、自然界にヒントを求める研究が行われています。
惑星磁気圏は、ダイポール磁場と呼ばれる単純な磁場の中に、高いプラズマ圧力を効率よく閉じ込めています。この磁場を人工的に再現することで、先進的な核融合装置の開発を目指すことを考えました。
その先駆者の一人が、 Hasegawaです。彼はダイポール磁場を使った核融合装置を提案しました[5]。Yoshidaらの理論では、ダイポール磁場中のプラズマに高速の回転流が、高ベータ(磁場圧力に対するプラズマ圧力の比)プラズマに重要な役割を果たすことが指摘されています[6-7]。その後、東京大学ではProto-RTを経てmini-RTや惑星磁気圏型装置RT-1が建設されました[8]。マサチューセッツ工科大学やマックス・プランクプラズマ物理研究所などで、ダイポール磁場を使ったプラズマ実験装置が次々と建設されました。これらの装置では、惑星磁気圏に類似したプラズマの特性や現象が観測され、核融合や反物質プラズマの研究に貢献しています。
ダイポール磁場を使った核融合装置は、自然界の物理法則に倣った革新的な技術です。この技術を発展させるための物理研究により、核融合エネルギーの早期実現を目指します。
東京大学新領域創成科学研究科の紹介記事:2018年 創成31号 Frontier Sciences 1(8ページ)
「磁気圏型プラズマ装置RT-1のプラズマ物理実験:実験室磁気圏プラズマから核融合エネルギー開発研究」


現在の核融合研究の主流であるトカマクやヘリカル方式では、プラズマ圧力は磁場圧力の1/10程度です。これに対して、木星の磁気圏では磁場圧力と同程度のプラズマが非常に高効率で閉じ込められています。
磁気圏型の高性能プラズマを人工的に作り出す事が出来れば、経済性に優れた先進的な核融合炉実現への応用が可能になります。木星磁気圏のプラズマ平衡の数値計算・高速流の動圧の効果により、超高βプラズマ閉じ込めが実現されます。
実験室において惑星磁気圏環境を作り出し、高い局所プラズマ圧力(βe>1)を達成しました。更に高性能プラズマ生成を目指します。
磁気圏型プラズマ装置RT-1
超伝導磁気浮上コイルを真空中に浮上させ、ダイポール磁場を発生し、惑星磁気圏を模擬。
磁気圏を模擬したプラズマの自己組織化現象の探求。
高ベータプラズマの安定生成。

- R. Freeman et al., Phys. Rev. Lett. 23, 756(1969).
- S. M. Krimigis et al., Science 206, 977 (1979).
- R. S. Selesnick, R. L. Mcnutt, JGR 92, 15249 (1987).
- L. J. Lanzerotti et al., Science 257, 1518 (1992).
- A. Hasegawa, Comments Plasma Phys. Control Fusion, 147 (1986)
- J. Shiraishi, S. Ohsaki and Z. Yoshida, Phys. Plasmas 12, 092901 (2005).
- Z. Yoshida et al., Plasma Phys. Control. Fusion, 55, 014018
- Y. Ogawa et al., Plasma and Fusion Res. 4, 020 (2009).

ITER機構の国際熱核融合炉ITERや量研機構のJT-60SAとは異なるユニークな閉じ込め方式を採用する惑星磁気圏型装置RT-1において、プラズマは高温電子と低温電子で異なる閉じ込め領域に存在していることが分かってきました。この特異なプラズマ構造は、地球磁気圏に存在するVan Allen帯のような2重構造を形成していることが、ミリ波とX線計測によって可視化することで初めて明らかになりました。
このプラズマの自己組織化と安定性については、個々のイオンと電子が集団的に振る舞うことで成り立っています。しかし、なぜこのようにプラズマが自己組織化して状態を安定に保つのかは、今後の解明するべき課題です。
これらの課題を解決することで、閉じ込め方式に関わらない普遍的な物理を抽出し、小型・高性能な核融合炉の開発や自然界の未解決問題に挑戦することが期待されています。
惑星磁気圏型装置において、プラズマの自己組織化と安定性に関連する未解決問題はいくつかあります。
以下にいくつかの課題を示します。
- 1. プラズマの自己組織化メカニズムの解明
プラズマは個々のイオンと電子が相互作用して集団的な振る舞いを示します。しかし、なぜプラズマがこのように自己組織化して安定な状態を保つのかはまだ完全には理解されていません。このメカニズムを解明することで、より効率的な核融合プロセスを実現するためのヒントを得ることができるでしょう。
- 2. プラズマのエネルギー損失の制御
プラズマ内のエネルギー損失は、核融合炉の効率に直接影響を与えます。プラズマのエネルギーを効率的に閉じ込める方法を探求し、エネルギー損失を最小限に抑えることが求められています。
- 3. プラズマの不安定性の管理
高温プラズマはさまざまな不安定性にさらされます。例えば、エネルギーの逃げ道となる磁気島や波動励起による粒子の掃き出し、磁力線を横切る熱・粒子の輸送問題などがあります。これらの不安定性を制御する方法を見つけることが重要です。
- 4. 小型・高性能な核融合炉の開発
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惑星磁気圏型装置の研究を通じて得られた知見を応用し、小型で高性能な核融合炉の開発が求められています。
これにより、持続可能なエネルギー源の実現に向けた一歩を踏み出すことができると考えています。これらの課題を解決することで、核融合技術の進歩と自然界の謎の解明に貢献できることを期待しています。
物質の診断から振る舞いを
可視化する
プラズマ診断

- ■静電プローブ
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周辺電子密度、電子温度、プラズマポテンシャル
- ■軟X線検出器
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高温電子エネルギースペクトル
- ■可視分光
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トロイダル流速、イオン温度等
- ■磁気ループ
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プラズマ蓄積エネルギーベータ値
- ■ミリ波干渉計
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電子密度、電子密度プロファイル
プラズマは物質の状態として、固体、液体、気体に続く第四の状態とされています。特に核融合プラズマは、非常に高温で、イオンと電子がバラバラになっています。この高温プラズマは、波長の短いX線から赤外線領域まで、様々な波長の電磁波を放出しています。目で見える電磁波は紫から赤色までの波長を持ちますが、X線はさらに短く、電子から放出されます。
興味深いことに、核融合プラズマでは目で見える明るい領域は高温状態ではなく、実際には温度が低いプラズマで周辺領域になります。プラズマの中心部にある透明な部分は、1億度を超える高温状態であり、核融合反応が生じる領域です。このため、プラズマを計測する際には可視光だけでなく、さまざまな手法を用いてプラズマを可視化する必要があります。これにより、プラズマの状態を明らかにし、衛星探査では分からない天体プラズマの研究にも貢献できます。
私たちの研究室では、新しい計測機器とデータ解析手法の開発に取り組んでいます。例えば、複屈折結晶を用いたコヒーレンスイメージング分光法を活用することで、通常の回折格子を使用した分光器では難しい高精細な2次元画像を得ることができるようになりました。

コヒーレンスイメージング分光(Coherence Imaging Spectroscopy, CIS)システム。
光のドップラー効果を利用することでHe+の線スペクトルの広がり量から温度を波長シフト量から流速を測定できます。光の位相差と空間変位を2枚の複屈折結晶(BBO)で発生させ、自身の光を干渉させることで、干渉縞の濃淡からイオン温度を、干渉縞の移動量から流速を測定することができます。
対物レンズから高感度EMCCDへのリレーレンズ系を構築しています。

CISシステムによる測定結果。イオン加熱でイオン温度Tiの高い領域が共鳴層Ωci付近で見られています。この結果は惑星磁気圏型装置で初めてイオン加熱に成功したことを示しています。開発したCISシステムを使い可視化に成功したことで、イオン加熱の実証を可能にしています。
プラズマを生成し、
高温に加熱する

電磁界伝搬シミュレーション
RT-1のような惑星磁気圏型装置は自然界に存在するもっとも単純でユニークな磁場形状を持ちます。高温プラズマを生成するためには、メガヘルツからギガヘルツ帯の電磁波を使いますが、ある特定の磁場強度でイオンや電子が波動と共鳴し、伝搬した電磁波のエネルギーはプラズマ中のイオンや電子を加熱するのに使われます。プラズマ中の波動の伝搬と吸収を理解し、最適なプラズマ加熱をおこなうために、電磁界シミュレーションは強力な手法になります。
右の図は電子サイクロトロン共鳴加熱に使う2.45GHzの電磁波がプラズマ中で伝搬する様子を示しています。電子サイクロトロン共鳴により電子を加熱します。電磁波のプラズマによる屈折や反射や吸収、装置壁での反射を考慮する必要があることが分かります。電磁波の伝搬と吸収はプラズマの誘電率によりその振る舞いを大きく変える性質を持ち、プラズマらしさの一つと言えます。核融合のような1億度近いプラズマ中の電磁波の吸収や伝搬を取り扱うには、弱相対論効果を考慮した誘電率を取り扱う必要があります。


(世界初!)
- ■電磁波によるプラズマ波動加熱物理
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イオンサイクロトロン加熱のためのアンテナモデル
図は2MHzの電磁波でイオンを加熱するイオンサイクロトロン共鳴加熱の電磁界シミュレーションと、加熱実験の結果を示しています。イオンサイクロトロン波を強磁場側から伝搬させる必要があり、そのアンテナ設計や電場分布の最適化をシミュレーションコードを用いて行いました。その結果、世界で初めてイオン加熱を実証しました。
最先端計測によりプラズマを可視化
~協同トムソン散乱計測による荷電粒子追跡~
核融合プラズマでは、重水素と三重水素の核融合反応により高エネルギーα粒子が発生し、
そのα粒子が加熱源となり外部加熱が無くてもプラズマの燃焼を維持し続けるのが核融合炉の発電シナリオです。
研究室で開発しているミリ波協同トムソン散乱(Collective Thomson Scattering:CTS)計測により、
プラズマ中のα粒子の空間分布やエネルギー状態を診断できるようになります。
計測データの解析に深層学習Conditional Generative Adversarial Networks(CGAN)を適用することで、
2次元速度空間上の粒子マッピングを世界で初めて可能にしました。
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![]() イオン速度分布関数の計測結果 |
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国際共同研究と学際研究を推進する
核融合やプラズマの研究は総合的な知識が必要になり、国際的な共同研究も活発に行われています。
東大のRT-1での研究にとどまらず、核融合研のLHDやドイツのMax Planck研究所の
Wendelstein 7-XやASDEX-Upgrade、国際熱核融合実験炉ITERなどとも共同研究を実施しています。
学際研究については米国Brookhaven国立研究所や国内では理研とも共同研究を行っています。
大学共同利用機関法人自然科学研究機構 核融合科学研究所/国立大学法人 総合研究大学院大学 物理科学研究科核融合科学専攻
- 燃焼プラズマ物理
- ミリ波/サブミリ波
- 加熱/計測/制御
- 乱流輸送
- データサイエンス

核融合研、東大、京大、九大、他

ドイツIPP
デンマークDTU

日本、EU、ロシア、中国、他
高エネルギー物理、加速器
理研、BNL(米国)