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地上の太陽となる未来技術
核融合炉による
エネルギー革命

核融合炉は、太陽のようなエネルギー源を人工的に再現する装置であり、地球上の太陽となる可能性を秘めています。この技術は、持続可能なエネルギーの革命をもたらす鍵となることが期待されています。

宇宙の恒星などは自ら核融合反応によりエネルギーを発生させその輝きを持続し続けている。人類は火をはじめ自然界に存在する反応をエネルギー源として利用してきた。加速器(コッククロフト・ウォルトン、初の人工的な原子核反応p+ 73Li→α+α、1932)により発生した高エネルギービームにより容易に核融合反応が再現できるようになると、高温プラズマ中の核融合反応を利用した核融合エネルギー研究を開始することになる。研究当初は容易に実現可能であると考えられていたプラズマ・核融合炉であったが、研究を進めると自律燃焼プラズマの維持には多くの解決すべき課題が存在することが明らかになった。

核融合研究は物理学・工学側面を持ち合わせており、その問題を明らかにし、今後の展望について議論する。特に核融合プラズマでは、1億度を超える超高温プラズマの輸送、その中で引き起こされるコレクティヴ現象と不安定性、波動物理、炉壁周辺における1万度程度の低温プラズマの原子分子素過程等を理解することが重要となる。高温プラズマを発生するためにはプラズマ加熱の研究、プラズマ内部における様々な現象を理解するためには、従来の計測器開発だけでなく新しいアイデアに基づく計測器も重要になってくる。

太陽で起きている核融合と
核融合発電に利用する
核融合の違い

核分裂反応を利用した発電は、ウランをある一定量集めることで
臨界を維持することが1940年フェルミらにより実証され、その後原子炉として実用化につながった。
一方、自然界に存在する恒星の核融合反応を地上のエネルギー源として利用するとどうであろうか。
まずは太陽の核融合反応について考える。

太陽の中で生じている主な核融合反応を下に示す。
このサイクルをpp連鎖反応(pp cycle もしくはpp chain reaction)と呼ぶ。
4つの反応をまとめると
4p + 2e- →4He + 2n + 6γ + 26.65MeV
になる。

反応 放出エネルギー
(MeV)
反応時間
p + p → D + e+ + n 0.4 140億年
e+ + e- → 2γ 1.0 10-19
p + D → 3He + γ 5.5 5.7秒
3He + 3He → 4He + 2p 12.85 100万年

水素・水素サイクル(pp連鎖反応)

太陽中心部のpp連鎖反応

太陽より温度が高い恒星では炭素・窒素・酸素サイクル(CNOサイクル)となる。

太陽の中の核融合反応の反応時間は140億年や100万年と非常に長い。太陽の中に大量に存在するプロトンのうちのわずかな量が核融合反応によりエネルギーを放出していることを意味する。下表に太陽と核融合炉のパラメータの比較を示す。太陽では重力により高い圧力が発生し、粒子を閉じ込めている。太陽は地球の平均密度の28倍、中心圧力は60,000倍の圧力領域が生成され、中心から半径の30%程度の小球内部でほとんどの核融合反応が生じている。太陽内部の単位体積当たりの発生エネルギーは10W/m3であり、このエネルギーは白熱電球と同等かそれ以下と低い値になっている。しかし巨大であるため表面から放出される総エネルギー量は非常に大きくなる。

核融合エネルギーを用いた発電においても太陽と同様のpp 連鎖反応が使えるかというと答えはノーである。重力により粒子を閉じ込めるには太陽のような巨大な装置を作る必要がある、反応が遅く得られるエネルギー密度が小さい、といった観点から太陽の核融合反応をエネルギー源として利用することはできない。では核融合反応をエネルギー源として利用するためにどのような反応や系を利用しようと考えられているのかを示していく。

太陽と核融合炉の状態比較
太陽 制御核融合炉
温度 1,600万度 2-3億度
密度 160g/cm3 4.15x10-10g/cm3 (1x1020m-3)
圧力 2,400億気圧 3-4気圧
エネルギー発生密度 10W/m3600kW/m3-4MW/m3

(注:水の密度は1g/cm3であることから太陽の密度はかなり高い。圧力も高い。)

核融合炉の核融合反応

太陽のpp連鎖反応は時定数が長いため、
エネルギー源としてはエネルギー密度が低く利用できないということを学んだ。
様々な核融合反応の中から、下の表に示すDD反応、DT反応、D3He反応を利用することが考えられている。

反応 放出エネルギー
(MeV)
反応時間
D + D → 3He(0.82) +n(2.45)
→ T(1.01) + p(3.03)
3.3
4.0
トリチウム
発生量
がDTに比べて
少ない。
D + T → 4He(3.52)
+ n(14.06)
17.6 反応率が高く、
放出エネルギー

高い。
D + 3He → 4He(3.67)
+ p(14.67)
18.3 中性子を
出さない。

核融合炉に利用される核融合反応

図.DT反応

核融合反応率から考えると、温度が低く反応率が高い反応が核融合炉の成立条件を容易にするので、DT反応が有利であることが分かる。次にDD反応やD3He反応が候補となる。反応の容易さだけを考えた場合はDT反応を使えば良いと考えるのが通常である。しかし、トリチウムは放射性同位体であり、人体に有害であるため、トリチウムを利用するためには特別な管理施設等が必要になる。従って、日本で核融合の実験を行う研究所(原子力機構や核融合科学研究所)では比較的放射線の影響が低いHプラズマ実験やDプラズマ実験(DD反応が発生する)による核融合炉の開発を進めている。前出のITERではDT反応による燃焼維持を考えているが、炉壁へのトリチウムの蓄積により取扱量の上限に達してしまう。よりトリチウム蓄積量が少ない炉壁材料が検討されている。開発当初、核融合炉はクリーンなエネルギー源であると言われていたが、放射線や機器の放射化の問題もあり、クリーンであるとは言われなくなっている。しかしながら、原子炉(分裂炉)とは異なり、事故が生じた場合に反応が暴走することもなく、トリチウムの半減期は12年であり核廃棄物が蓄積することもない。重水素は海水から抽出することができるため、ほぼ無尽蔵と考えて良い。核融合炉のこのようなメリットは非常に魅力的である。

核融合炉のメリット

  • 反応が暴走しない。
  • 放射性物質は発生するがトリチウムの半減期は12年。
  • 関連機器は放射化するが、低放射化材料などを利用することで放射化を低減可能。
  • 海水から燃料を採取可能なため偏在しない。

参考文献

  • 宇宙科学入門第2版,尾崎洋二,2010年, 東京大学出版
  • 物理学と核融合,菊池満,2009年,京都大学学術出版会

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