重イオンビームによるプラズマ電位計測(Heavy Ion Beam Probe: HIBP)とは ~原理・特徴・LHDでの成果~ 【世界最高水準の成果】 LHDのプラズマ電位を高精度で可視化
This page presents our physics-driven study on bifurcated particle transport regulated by energetic ions in fusion plasmas. Using complementary, world-leading diagnostics—including heavy ion beam probes (HIBP), collective Thomson scattering (CTS), and electron cyclotron heating (ECH)— on the Large Helical Device (LHD), we reveal core plasma potential structures and energetic-ion-driven transport under high-temperature and strong-magnetic-field conditions.
私たちの研究グループは、核融合研究として世界で唯一、強磁場・超高温プラズマの中心電位を直接かつ高精度に可視化することに成功しました。 この成果は、大型ヘリカル装置 LHD と、独自に開発した多段加速 × タンデム加速 × HIBP 技術を統合することで初めて実現したものです。
- 世界唯一の性能:1億度級・3テスラの強磁場プラズマ中心電位を直接計測できるのは世界でLHDだけ。
- 新しい可視化技術:これまで不可能だった「プラズマ内部の電位分布」をサブミリ秒分解能で高精度観測。
- 将来への意義:α粒子自己加熱シナリオの実証、核融合炉の性能予測モデルの高度化に不可欠な基盤データを世界に先駆けて提供。
【なぜ電位が重要なのか?】
核融合炉の性能を決めるのは、プラズマ内部のエネルギー流と粒子輸送です。その“駆動源”として最も重要なのが プラズマ電位 であり、
電位がわずかに変わるだけで輸送状態が大きく変化します。したがって、プラズマ電位を高精度に測ることは、核融合炉の設計・最適化に不可欠です。
【なぜ金イオンなのか?】
- 重いため、磁場の影響を受けにくくプラズマの中心にとどく。
- 加速器によりメガ電子ボルトまで安定に加速できる。
- プラズマ温度:1 億度
- 磁場強度:1 ~ 2.8 テスラ
- イオン種:世界で唯一、金イオン(Au⁺)を多段加速で LHD に入射
- ビームエネルギー:最大 6 MeV
- 連続高電流ビーム:10 μA 超(従来比 3 倍以上)
【何が「世界最高」なのか】
→ これら すべてを同時に満たす実働する電位計測システムは世界で LHD-HIBP のみです。
プラズマと電位:なぜ「プラズマ電位」を測るのか
核融合炉の性能を決めるのは、プラズマ内部のエネルギー流と粒子輸送です。その“駆動源”となるのがプラズマ電位であり、電位がわずかに変化するだけで輸送状態が大きく変わります。 プラズマは、マイナスの電子とプラスのイオンが自由に飛び交う電離気体で、電荷のバランスが取れた「準中性」という特異な性質を持っています。
核融合炉では、このプラズマをドーナツ型の磁場(トカマク型やヘリカル型)で閉じ込めますが、電子とイオンの動きの違いによって、内部に自然と「電位差(プラズマ電位)」が生じます。
この電位は、プラズマのエネルギー流や粒子の分布に影響を与え、最終的には核融合の効率そのものを左右します。つまり、「プラズマ電位を正確に測る」ことは、未来のエネルギー技術である核融合炉の性能を最大限に引き出すカギなのです。
プラズマ電位のビーム計測:重イオンビームプローブ(HIBP)の原理
そこで登場するのが、最新の計測技術「重イオンビームプローブ(HIBP)」です。 この手法では、図1のように、金の正イオン(Au+)を高電圧の加速器でプラズマ内部に打ち込み、その中で起こる“イオンのエネルギー変化”から電位を読み取ります。 また、ビームの軌道を走査することで、空間的な電位分布 φ(r) をマッピングすることも可能です。 これは、他の手法では実現困難な革新的な測定方法といえます。
プラズマ中をイオンビームが軌道s0からs3の経路上を通過すると、プラズマ電位の変化を感じ、 イオンビームはs0からs1で減速、s1からs3では加速されます。 入射ビームエネルギーE0はプラズマを出るときにはE0+eφ(s1)となり、 エネルギー変化eφ(s1)から電位を測定します。
LHDにおける超高温プラズマの電位計測と世界最高性能のイオン加速技術
【世界最高レベル】 超高温・強磁場条件下でのプラズマ中心電位の高精度計測を実現
このHIBPを世界で唯一、超高温・高磁場環境の核融合装置「大型ヘリカル装置(LHD)」で本格稼働させているのが、私たちの研究グループです。
LHDでは、磁場3テスラの中心に金のイオンビームを精密に打ち込み、電子がはぎ取られた瞬間を捉えることで、プラズマ電位を測定します。そのためには、 ・非常に重い金イオン(Au) ・高エネルギー(最大6 MeV) ・安定・高出力(10μA以上) という極限条件を満たすビームが必要です。
これを実現しているのが、3MVタンデム加速器とビーム物理技術です。私たちは、世界で類を見ない規模で Au⁻ → Au⁺ の高出力ビーム生成を成功させ、 実用レベルのHIBPを確立しました。
プラズマ中でイオン化し、2価の金正イオンビームとなり、エネルギー分析される。
このシステムは、高性能負イオン源の開発、ビーム軌道制御、高電流ビーム加速技術の融合によって支えられており、基礎から応用にまたがる最先端の成果といえます。
本ページで紹介した核融合・プラズマの研究は、東京大学 西浦研究室 において実際に行われています。
研究内容や装置開発、大学院進学に関する情報は以下よりご覧いただけます。
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参考文献
- 井戸毅,清水昭博,西浦正樹,プラズマ核融合学会誌Vol.86, No9, (2010) 507-516.
- M. Nishiura, K. Nakamura, K. Ueda, A. Shimizu, H. Takubo, M. Kanda, T. Ido, M. Okamura, "Enhanced beam transport via space charge mitigation in a multistage accelerator for fusion plasma diagnostics", Nuclear Fusion 65(2025) 116017.
- 核融合科学研究所,東京大学、九州大学,ブルックヘブン国立研究所,プレスリリース,"核融合炉に重要なプラズマ内部電位の高精度計測に成功 - 高効率加速器×非接触計測で実現 -",2025年11月13日. 当研究室のホームページの関連ニュース記事