プラズマとは


プラズマ理工学の実験研究を行っています.固体,液体,気体に続く物質の第四の状態と言われる「プラズマ」とは,物質を構成する分子が電子とイオンに分離した状態を指します.一つの荷電粒子の運動は単純かもしれませんが,多数の荷電粒子が電磁場の中で相互作用しながら示す複雑な挙動は,単一粒子の運動としての観点からだけでは理解できない,様々な興味深い振る舞いを示します.プラズマ物理学は,こうした荷電粒子群の電磁場中での運動や集団現象に着目した研究分野です.

荷電粒子群のプラズマとしての現象を理解する事は,天体や磁気圏,オーロラ等に観測される物理現象を解明する上でも重要です.またプラズマは,照明技術や半導体材料の微細加工,イオンエンジンを用いたロケット等,幅広い科学技術分野で使用される他に,国際的な巨大プロジェクトとして高温プラズマの熱核融合反応を用いた核融合エネルギー開発が進められています.さらに,荷電粒子閉じ込めの物理は,伝統的なプラズマ物理にとどまらず,非中性プラズマや原子物理,反物質科学等の科学技術分野の基盤技術の一つです.歴史的に,新しい粒子閉じ込め配位の実現は,従来不可能であった様々な実験研究を可能にしてきました.

研究分野について


こうしたプラズマ理工学の分野で,ダイポール磁場を用いた先進的な核融合や反物質トラップを目指す研究に取り組んでいます.ダイポール磁場は,地球や木星等の周辺に広がる磁気圏と同様の形状を持ち,惑星磁気圏では流れを持つプラズマの自発的な閉じ込めや各種の波動等,未解明の現象が多く観測されています.実験室では,円環電流によりダイポール磁場を作り出す事が出来ます.東京大学吉田研究室のRT-1装置は,磁気浮上させた超伝導コイルを無冷却状態で運転するという極めて高度な技術により,磁気圏型配位の生成に成功しています.コイルの磁気浮上の実現によりプラズマに与える擾乱を抑制し,高性能プラズマの安定生成や,非中性の純電子プラズマの長時間(300秒以上)閉じ込め等の成果が実現されています.

高いベータ値(磁気圧力で規格化したプラズマ圧力)を持つプラズマの安定閉じ込めを実現することで,トカマクやヘリカル配位での実現が困難とされるD-DやD-3He反応を利用した先進的核融合が可能になります.ダイポール磁場中ではこのような高性能プラズマが自己組織化されることが宇宙や実験室で観測されており,RT-1において波動粒子相互作用に着目してそのメカニズムの解明を進めています.また,惑星磁気圏と大域的に共通の磁場構造を持つダイポール磁場では,宇宙天気予報と関わるジオスペース現象の実験室研究が可能になります.更に,学融合分野におけるダイポール磁場の科学的応用として,電子・陽電子ペアプラズマ等の反物質プラズマの実現と物性解明を目指しています.

研究テーマ


■ RT-1における高温プラズマ研究

東京大学のRT-1磁気圏型装置で,主にECH加熱により高温プラズマを生成してその特性の実験的研究を行っています.

RT-1で観測される磁気揺動の観測例.自己組織化に関わると推定される低周波(10kHz程度以下)揺動,交換型モードの特性を示す1MHz程度の揺動に加えて,30MHz程度の帯域で新しい揺動モードが観測される.


■ 電子陽電子プラズマ生成の基礎研究

マックスプランク・プラズマ物理研究所(IPP,ドイツ)や核融合科学研究所等と共同で,大強度陽電子ビームを用いた物質反物質プラズマの生成を目標とする研究を行っています.小型のダイポール磁場配位を生成して,電子と陽電子の同時閉じ込めを目指しています.

永久磁石を用いたプロトタイプ装置を用いて,陽電子の高効率の入射や1秒程度の閉じ込め,また回転電場による径方向圧縮を実現しています[H. Saitoh et al., New J. Physics 17, 103038 (2015)].高温超伝導コイルによる磁気浮上配位の生成を計画しています.


■ ダイポール磁場を用いた非中性(純電子)プラズマの研究

RT-1において非中性プラズマ実験を行い,純電子プラズマの長時間閉じ込めを実現しています.乱流による強磁場領域への輸送を経て,プラズマの安定な構造が自己組織化される事が明らかになりました.

RT-1で観測されるプラズマ(純電子による非中性プラズマ)の自己組織化では,揺動の乱流成分が選択的に減衰すると共に,安定な構造が出現して長時間(300秒以上)に渡り維持される.[H. Saitoh et al., Phys. Plasmas 17, 112111 (2010)]


過去の研究課題

■ カスプ磁場中の非中性プラズマ(反水素生成の基礎研究)

カスプ(anti-Helmholtz型)磁場配位で生成された非中性プラズマに回転電場印加実験を行い,径方向圧縮による高密度化を実現しました.反水素実験を行うCERNのASACUSA実験にMUSASHIトラップグループで実施した基礎研究です.


カスプトラップの模式図と電場及び磁場の分布図.方位角方向に分割した電極に位相の異なる回転電場を印加する事で,非中性プラズマの径方向圧縮が実現される. [H. Saitoh et al., Phys. Rev. A 77, 051403(R) (2008)]

■ Proto-RTにおける非中性及びRFプラズマ

機械支持コイルによるダイポール磁場装置Proto-RTにおいて,プラズマの流れ駆動や非中性(純電子)プラズマの安定閉じ込めの研究を行いました.純電子プラズマ実験では,従来閉じ込めが困難であったトロイダル非中性プラズマの0.1秒以上の閉じ込めを実現しました.

Proto-RTの非中性プラズマ内部の電位分布構造.内部導体上に設置した電極をバイアスして電位制御を行う事で,プラズマの安定化と長時間閉じ込めが実現された.[H. Saitoh et al., Phys. Rev. Lett. 92, 255005 (2004)]


東京大学 新領域創成科学研究科 先端エネルギー工学専攻 プラズマ理工学講座
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