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物理学会2002年秋 発表メモ

1.表紙
「トーラス系における電子プラズマの長時間閉じ込め」について,東大新領域の齋藤が発表致します.


2.背景と目的
非中性プラズマの閉じ込めにおいて,トーラス型の装置は直線型と比較して高エネルギー・異なる電荷の同時閉じ込めが可能というメリットがある.こうした点を生かして,高βを目指した二流体プラズマの閉じ込め等,各種の荷電粒子トラップを目的とした研究が進められている.
一方で,軸対象な系で一様磁場を使用する直線型装置に対して,トーラス系では長時間閉じ込めは困難.純トロイダル磁場を用いた電子プラズマでは100μ秒程度以下の閉じ込め時間しか得られていない.
これに対してProto-RT装置は,通常のトロイダル磁場に加えて二種類のポロイダル磁場コイルを備えた磁気シヤ−配位系であり,現在電子プラズマによる基礎実験が行われている.
特徴として,磁気面を持つ閉じ込め配位であり,また電極による電位分布の制御が可能である.
→不安定性の抑制や閉じ込め時間の改善を目指す.具体的には,電場制御とその時の閉じ込め時間の評価.


3.実験装置・計測器の構成
Proto-RT装置のポロイダル断面.トロイダル磁場コイルに加えて,装置内部に内部導体が吊り下げられており,垂直磁場と合わせて種々の磁気面を作り出す事ができる.
また内部導体上と中心軸上に電極を備え,プラズマ中に外部電場を加える事でポテンシャル構造の最適化が可能.
この系に電子銃から入射してプラズマを生成し,二種類のプローブで計測を行う: 空間電位の分布の計測用にemissiveプローブを使用し,閉じ込め時間の評価等,持続性の静電揺動を計測するためにwall probeを使用.


4.閉じ込め時間の評価
閉じ込め時間の評価のために,定常磁場中で電子プラズマを生成し,電子供給停止以降のプラズマを計測する.
測定対象が,電子入射中で1013m-3,良好な閉じ込め特性を示すものが1011~12m-3と希薄なプラズマなので,擾乱の大きさからLangmuirプローブの使用は困難.→wall probeによる非接触測定を行う.
Wall probeは装置内に配置された金属フォイルで,石英管によってプラズマから絶縁され,電流ampを介して真空容器に接続されている.電子プラズマの電荷の変動や,diocotoron振動による静電揺動を,フォイル上の鏡像電荷の変化を計測する事で測定できる.


5.電位制御による閉じ込め改善
ポテンシャル制御による電位分布の変化を示す.左は電位制御を行わず,内部導体の電極を接地した場合:等ポテンシャル面と磁気面が一致せず,磁気面を横切る拡散が大きい事を示している.プラズマと同じ負電位を与えると,等ポテンシャル面が磁気面に近い分布を取り,また中空状の電位分布が解消される事で,不安定性の原因となるE×B流のシヤ−を減少できる.
これら2つの場合の静電揺動を示す. 100μ秒の電子入射後,電位制御しない時は直ちに(50μ秒程度で)減衰するが,電位制御した場合には静電揺動が持続して観測される.以下の観測事実から,これはトラップされた電子プラズマのdiocotron振動であると考えられる.


6.静電揺動の特性と閉じ込め電荷
電子入射(t=0, 100μ秒)以降の静電揺動の典型波形.傾向として,周波数が低下しながら不安定性が成長するが,周波数低下が緩やかになる付近で振幅が減衰に転じる.その後,不安定性の急成長までは比較的安定した揺動.
この準安定的な周波数について,磁場強度と外部電場強度依存性はdiocotron振動の傾向と一致.電子の拡散による密度減少の傾向,電子入射中の揺動周波数と,電位分布から計測した密度の一致.
→観測された静電揺動は,トラップされた電子の揺動を示している. 電荷を測定すると,不安定性の急成長時に激減しており,閉じ込め上限を示している.


7.閉じ込め時間の上限
平衡の破壊の位置は,真空度と磁場強度により改善.
Proto-RT装置の磁場・電場は良好な平衡配位を形成しており,中性衝突拡散による閉じ込めの上限に達している.
静電揺動をトラップされたプラズマのポテンシャルで規格化すると,磁気シヤ−の増大によって揺動振幅が減少している.今のところ中性衝突により上限値が課せられており,磁場,真空度,磁気シヤ−による安定化によって,閉じ込めをかいぜんする余地がある.


8.まとめ(結論と今後の課題)
Proto-RTにおいて,トーラス電子プラズマのポテンシャル制御を行う事で,磁気面と等ポテンシャル面の接近によって閉じ込め特性を改善した.
現在の閉じ込め時間は中性衝突による上限値に達しており,真空度の向上と磁場強度上昇によって改善が可能と考えられる.今後,そうした改善や振動モードの特定が必要.

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