研究紹介
洞爺湖

ここでは自分の研究について少し細かく書いてます。研究概要は 吉田研 ホームページを御覧下さい。

基本的には紙と鉛筆でやる研究が 多いのですが、htmlで式を書くのが面倒なので式を割愛し、文章と(見にくい ですが)図のみで書いてみました。



流れをもつプラズマとホール電流

”プラズマ流”、またはそれに伴う”流れ”と”磁場”がカップリングした場 はプラズマ集団現象の最も重要な特徴の一つである。太陽観測衛星衛星やハッ ブル望遠鏡などによって、宇宙のプラズマの姿が詳しく見えるにしたがって、 多様な流れがプラズマを支配し、豊かな構造を生み出していることが認識され ている。実験室系(核融合プラズマ等)の研究でも静かに閉じ込めていたはず のプラズマが自発的に流れを生み出し、特性を大きく変化させることが分かっ てきた。このように様々な現象においてプラズマ流の重要性が明らかになる一 方で、平衡や安定性、波動に対する流れの効果を理解するための物理と数学が 十分であるとはいえない。

プラズマの理論的研究には、電磁流体力学(Magnetohydorodynamics;MHD)が 広く用いられている。(MHDは特性長をもたないため)実験室系から天体プラ ズマまで様々なプラズマに対しての理論的体系がMHDによって作られてきた。 静的なプラズマのマクロな現象を記述するにはMHD理論は妥当であると考えら れている。しかし電磁流体力学という名前にも関わらず、MHD理論ではプラズ マ流が支配的であるような運動に関して、小さな側面しか理解されていない。 実際MHDによる研究の多くは静的なプラズマに関するものである。それは流れ がない方が単純であるという理由からだけではなく、流れのないプラズマに対 しては強力な数学的手法が存在するからである。例えば、平衡に関するグラッ ド・シャフラノフ(Grad-Shafranov)方程式や安定性解析に関するエネルギー 原理などである。逆に言うと流れがある場合には多くの困難が存在するのであ る。流れのあるMHD平衡を考えると、平衡を記述する偏微分方程式は流速に応 じて楕円型から双曲型へと変化することが知られている。これは衝撃波の発生 を示唆するが、2次元(以上)では解の存在さえ不明である。非圧縮流を仮定 することで、方程式は楕円型となるが特異点を含んでいる。これは、MHD 理論 が(ポロイダル断面で)磁場を横切る流れを許さないことに起因している。さ らに流れをもつプラズマの線形安定性解析においては、作用素が非エルミート になるため、流れがない場合と異なり、モード展開による解析を行っても安定 性の完全な理解を得ることはできない。またプラズマ中の複雑な構造形成には、 かけ離れたスケールの運動が共存し、かつそれらが相互作用することが重要な 役割を果たしていると考えられるが、MHD 方程式は特性長をもたない方程式で あるため、(プラズマ領域に比べて小さな)ミクロスケールの効果を記述する ことは困難である。実際、コロナ加熱やリコネクション、H モード閉じ込めに おける境界層などミクロスケールの効果が重要であると考えられる現象は数多 くある。

プラズマ流の効果、ミクロスケールの効果をより詳細に解析するため、主に二 流体モデルを用いた理論研究を行っている。イオン流体と電子流体を区別する 二流体モデルでは一流体モデル(MHD)に比べてより広範な流れ場(イオン流)、 磁場(電子流)配位を考察することができる。電子慣性を無視した二流体モデル はホール(Hall)MHDによって記述することができる。ホールMHD方程式とは、 MHD方程式にホール項が加わった方程式である。方程式上で、ホール項は微小 パラメータ を係数とする方程式の最高階微分項である。このような項は、数 学的に特異摂動項と呼ばれ、特異点などの急激な変化が起こるところで、大き な役割を果たす。物理的には、ホール項によってイオン表皮長という特性長が MHD方程式に導入され、マクロスケール(系の大きさ)とミクロスケール(イ オン表皮長)の相互作用を記述することが可能となる。つまりホール項は二流 体効果を表す主要項であり、イオンスキン長程度(一般には小さい)のスケール で重要となってくる。

流れをもつプラズマ中には様々な特異点が存在する。現在はそのような特異点 と特異摂動としてのホール効果に関する理論研究を行っている。



流れをもつプラズマの平衡

軸対称な系において非圧縮流をもつプラズマのMHD平衡方程式は磁束関数と流 れ関数を用いて記述することができる。その際現れる微分作用素(グラッド・ シャフラノフ作用素) は楕円型微分作用素であるが、ポロイダルアルフベンマッ ハ数が1となるところに特異点をもつ。ポロイダル断面上で流れ場が磁場に平 行でなくてはならないというMHD方程式の制限(流れ関数は磁気面関数でなくて はならない)が特異点を生み出す原因となっている。

このような困難を取り除くのが特異摂動である。ホール項による特異摂動を考 えるとポロイダル磁場に垂直成分をもつポロイダル流を考えることができ(流 れ関数は磁気面関数でなくなる)、平衡方程式は磁束関数と流れ関数に対する 2つの連立楕円型偏微分方程式で表される。これらは特異点をもたない楕円型 方程式なので境界値問題として解くことができる。内部導体をもつトーラス領 域でを解いて、二流体モデルの緩和状態と考えられている二重Beltrami (double Beltrami)平衡解を得ることができる。

二重Beltrami平衡

内部導体トーラス系における二重Beltrami平衡、磁束関数とベータ(圧力)

緩和状態の準位構造

プラズマ緩和状態の準位構造



流れのあるプラズマのリアプノフ安定性解析

流れのある平衡の線形安定性解析では、作用素が非エルミートになるためモー ド展開によって完全な理解を得ることができない。摂動がexp(-iwt) に比例す るものとして得られる分散関係を解いて、固有値wが全て実数であったとして も代数的(時間tの冪乗)に成長する不安定性が存在することが知られている。 本研究では摂動のエネルギーに上限を与えるような運動の定数(Lyapunov関数) を見つけ、Beltrami場と呼ばれる流れをもつ平衡の安定十分条件(Lyapunov安 定条件)を求めた。

変分によって特徴付けられる平衡(これをBeltrami平衡と呼ぶ)については、 その変分に関連して、摂動量の保存量(運動の定数)を見つけることができる。 二次元流体、MHD、二流体MHD方程式では、エネルギーやヘリシティーなどの保 存量が存在する。それらをを組み合わせた汎関数G(U)(こここでUは磁場や流れ 場)の変分をとることによって、緩和状態を記述するBeltrami平衡を導くこと ができる。Beltrami平衡に摂動U=U0+uを考えると、摂動に対して G(u)が運動の定数となることが証明される。二次元中性流体、MHDではこの運 動の定数G(u)と強圧条件(coerciveness condition;ここではポアンカレ型の 不等式で書かれる)を用いると、摂動のエネルギー|u|2の上限が 与えられる。つまり、G(u)をリアプノフ関数として用いることができ、安定性 の議論を行なうことができる。具体的にはBeltramiパラメータと領域の大きさ に依存する定数を関連付けることによって代数的不安定性、非線形不安定性も 考慮した安定性の十分条件(Lyapunov安定条件)を得ることができる。ここで 鍵となるのは強圧条件である。強圧条件は微分の階数で測られるので、強圧条 件と運動の定数G(u)を用いて安定条件を得るためには、汎関数Gの最高階微分 項が正値である、つまりGが凸であることが必要となる。

MHDのBeltrami平衡のLyapunov安定条件

しかし二流体(Hall)MHD方程式では特異摂動の効果によって、汎関数Gの最高階 微分項は正値でなくなる(汎関数Gが凸でなくなる)。つまり二流体MHD方程式 の平衡解である二重Beltrami平衡の安定性解析において、G(u)をLyapunov関数 として用いることができない。Lyapunov安定性の議論を行うためには、より高 階かつ正値であるような運動の定数が必要となる。具体的にはエンストロフィー (渦度の二乗)オーダーの保存量が要求される。エンストロフィーは二次元流 体の保存量であるが、三次元では対流微分項の引き伸ばし効果によって保存が 破られる。二流体MHD方程式でも一般にエンストロフィーは保存量ではなく、 それと同等の保存量も存在しない。

特殊な二重Beltrami平衡を考えると、摂動に対してG(u)以外に、エンストロ フィーオーダーである運動の定数を見つけることができる。具体的には(I) 流れ場が直線で磁場がねじれてる場合、(II)磁場が直線で流れ場がねじれて る場合、の2通りである。この2通りの場合に対しては、Beltramiパラメータと 領域に依存した定数(ラプラシアンの最小固有値)を関連付けてLyapunov安定 条件を求めることができる。しかし一般の二重Beltrami平衡の安定性に関して は未解決の問題である。



アルフベン波とホール効果

磁気プラズマ中の代表的なMHD波にアルフベン(Alfven)波がある。アルフベン 波は磁力線に沿って(一次元的に)伝播する。光などのような波は三次元的に 伝播するので光源から遠ざかると波は広がって弱くなる。アルフベン波は、こ のような空間的広がりをもたないので磁力線に沿って極めて遠距離まで到達す る。このような伝播方向の退化は連続スペクトルを発生する原因となる。理想 MHD方程式では、非一様磁場中を伝播するアルフベン波は連続スペクトルをも ち、固有関数は特異点をもつ2階常微分方程式の(フロベニウス型の)解とし て与えられる。しかしスペクトルの特異摂動(微分の最高階数が変化する摂動) を加えるとスペクトルに定性的な変化が生じる。例えば、散逸による特異摂動 を加えると、連続スペクトルの下端点が摂動を受けて不安定なモード(この不 安定性をテアリング不安定性と呼ぶ)が発生することが知られている。また電 子の慣性を考慮すると、方程式に4階微分項が加わり特異点が取り除かれる。 その結果、連続スペクトルは点スペクトルへと変化する。

MHD方程式に特異摂動として加わるホール項がアルフベン連続スペクトルにど のように影響するか研究を行った。非一様磁場中を伝播するアルフベン波はゼ ロ圧力の場合、ホール効果によって波の偏波が直線偏波から楕円偏波へと変わ ること、周波数がシフトすることが計算されるが、方程式は特異点をもち、連 続スペクトルを与える。しかし、低ベータ(低圧力)の場合、ホール効果と音波 のカップリングによって、4階微分項が付け足される。この特異摂動項によっ てモード方程式は特異点をもたない4階の常微分方程式となり、スペクトルは 連続スペクトルから点スペクトルへと変化する。



流れをもつプラズマの緩和過程におけるホール効果

MHDとホールMHD方程式の数値計算を行い両者を比較し非線形ダイナミックスに おけるホール効果の研究をおこなった。両者とも乱流によってエネルギー散逸 が引き起こされ、大きなスケールをもつ構造へと自己組織化される。しかし、 ホールMHDではホール項の特異摂動効果によって、磁場に垂直成分の流れがよ り生成され、運動エネルギーの散逸がより速くなることが確かめられた。散逸 が強められるのは、より小さいスケールの揺動が生成されているためであり、 これはホール効果によってスケール階層が作られていることを意味している。

発表資料(pdf), 数値シミュレーション結果1, 数値シミュレーション結果2


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